最新のニュースで、「知事や市長の不信任」、「議会解散」、このような言葉を耳にされた方も多いかと思います。ここ一年では、兵庫県、大阪府岸和田市、静岡県伊東市、沖縄県南城市で、知事・市長の不信任が決議されました。これらはすべて、首長に問題があるとする議会が、その行為や態度を問題視し、不信任案を議会に提出し、可決されたものです。今後の動向によっては群馬県前橋市でも同様の行為があるかもしれません。地方議会の不信任の詳細は後程詳しく説明しますが、不信任に至る理由は、すべて首長が何らかの問題を起こしていることで共通しています。問題が発覚し、議会や報道機関からの追求、有権者からの厳し声を受け、議会が不信任案を提出するに至っています。
二元代表制
戦後日本の地方自治制度では二元代表制が採用され、首長と議員のそれぞれが住民の直接選挙で選ばれ、首長の執行機関と議会によって地方自治が担われています。地方政治の二元代表制、議会と首長の関係は車の両輪にたとえられることがあります。しかし実際は、権限の多くが首長に集中し、首長に優位性があります。議会の権限については、普通地方公共団体の意思決定機関として、議決権や監査権を有していますが、報道では、執行機関の監視等の役割だけが強調されているのが実態で、執行機関である首長の予算提案や提出条例が否決されれば、住民生活に支障が出るなどの面から、議会の動向が注視されることが多いのが現状であります。実際、ニュースや新聞では、賛成可決なら「穏やか」、反対否決なら「荒れる」と、表現されることが多いです。二元代表制における議会と首長は、本質的に衝突し得る制度です。しかし、なぜ議会と首長はあまり衝突せず、穏やかな協調路線をたどる議会が多いのか、その理由はいくつか考えられますが、一番の理由は、多くの地方議会で議会多数派が首長与党だと考えられます。

上記イラストは、私の修士論文に記載した「地方政治の枠組み」について、権限と関係を説明したものです。
首長と議会の対立

首長も議会も選挙で選ばれますので、国政と違い議会のなかで、いわゆる首長与党が必ずしも多数派を占めているとは限りません。特に市町村議会では、無所属の議員が多く保守系の議員のなかでも「会派」という、政策や主義主張を共通した議員が組織単位に分かれて活動を行う実態もありますので、会派単位での与党会派、野党会派の数が重要になってきます。
地方議会においても、首長を支持する会派(議員)と支持しない会派(議員)の間に与野党関係が生まれます。ただ、これは国の議院内閣制における枠組を、首長への支持、不支持に当てはめたもので、本来的には、二元代表制において与野党関係は発生しないといえます。しかし、二元代表制における首長への支持、不支持の関係を、あえて与野党関係に当てはめると、地方議会では対決型と協調型の 2 つが存在することになります。
先に述べましたが、全国の多くの地方議会では議会多数派が首長与党で、協調型の議会となっています。しかし、対決型で、仮に与党会派が少数の首長であっても、議会に丁寧に説明し、議員の要望に耳を傾けるなど、様々な方法によって、議会との意思疎通を図り、それぞれの地方自治運営において深刻な対立を生むことなのない努力が水面下で行われています。議員も、自身が地域や組織の代表であるという意識を持っていますので首長を含む行政側とコミュニケーションをとり、民意に応える考え方の者は多いです。
しかし、それぞれの自治体における重要施策に対する首長の方針や、議会と意思疎通を図らない独断専行、明らかに実現困難な選挙公約を当選後に撤回や修正、また、パワーハラスメントやセクシャルハラスメント、さらには、収賄等の犯罪行為やスキャンダルなどにより、首長として不適格、行政を混乱させた責任、信頼失墜などの理由により、不信任案が提出される例があります。
不信任案提出と議決
前述のような対立が生じた場合に議会は混乱します。首長は関係修復への努力をしますが、不調に終わった場合、議会側の最後の手段として、首長の不信任案が議会に提出されることになります。不信任案提出は、少数の議員でも提出可能ですが、在籍議員の3分の2以上の出席、出席議員の4分の3以上の賛成が必要で、可決するためのハードルは決して低くありません。通常の議案が可決されるためには、過半数の賛成があればいいので、かなり厳しい要件いえます。
地方議会で不信任議決がされた場合に首長としての選択はふたつあります。「失職」か「議会の解散」かです。兵庫県の斎藤知事は失職を選択し、再選挙に立候補し民意を得て再選されました。岸和田市と伊東市は議会解散を選択しています。選択の期間は議決通知の日から10日間です。斎藤知事の判断のように、失職を選んだ場合にも再び次の首長の選挙に立候補はできます。首長として自らの行動の正当性に自信がることで、選択できる判断といえます。しかし、これまでの判断のほとんどが議会解散を選択しています。わかりやすく説明すると、首長としては、自信への不信任を突きつけた議会に対して、自分だけが失職し再選挙に挑むことは、腹立たしい思いが強く、ならば議会を解散するといういわば「伝家の宝刀」をぬくわけです。ここで注意してほしいのは、衆議院議員の解散権が総理大臣にあることとは異なり、首長には議会の解散権はありません。自らへの不信任議決があった場合にのみ選択権を与えられる権限になります。
リターンマッチ
議会が不信任を突きつけ、岸和田市や伊東市のように、議会判断には応じず議会解散が選択され、議員の身分を失い出直し選挙となった議員側には対首長の「リターンマッチ」が選挙後あります。それが不信任案の再提出と再可決です。この場合、議会が有利な制度となっており、再可決へは在籍議員の3分の2以上の出席は同じですが、出席議員の過半数の賛成で可決と、ハードルが下がります。
議会解散を選択した岸和田市は、このリターンマッチで市長が失職、出直し選挙に立候補するも落選。伊東市も同じく議会を解散し、これから議員選挙が行われますが、ほぼ間違いなく、現職市長と対決姿勢の議員が過半数以上当選すると思われるので、選挙後に不信任案が再提出され、再可決し、結果として現職市長は失職するでしょう。
おわりに
ここまで、知事や市長の不信任、議会解散、出直し選挙について、事例を挙げて説明してきましたが、伊東市や南城市は今後の動向、判断が注目されるところですので、次の機会に触れていきたいと思います。これら事例に共通するのは、問題が大きく報道で報じられ、世論もふくめ首長に厳しい状況が生まれているということです。しかし、問題を抱える首長であっても、選挙で選ばれ議会と対峙しながらも地方自治を運営している事例もありますので、有権者からの民意の反映は地域事情によって大きく変わると言わざるを得ません。